Narcissu & Narcissu -SIDE 2nd- 感想とか

はじめに

フリーゲームの『Narcissu 』および『 Narcissu -SIDE 2nd-』をやりました.
『Narcissu 』はこの執筆の3年前にプレイ済だったのですが, 淡路島に行く機会があったので, 無印, SIDE 2ndとリプレイとプレイをしました.
とても良い作品だと思い, 感想を書き連ねたいと思ったのが執筆の動機です. (ErogameScape内で初めて100点をつけました.)
この記事は『Narcissu 』および『 Narcissu -SIDE 2nd-』のネタバレを含みます.

概要

『Narcissu 』,『 Narcissu -SIDE 2nd-』は同人サークル『ステージなな』様が製作した全年齢向ビジュアルノベルソフトです[1]. 公式ページから無料でダウンロードして遊ぶことができます.
このナルキッソスシリーズにおいての特徴は, 物語における情報量の少なさにあります.
そもそもビジュアルノベルゲームとは,

電子画面上で読む小説であり、画面に表示される文章に絵や映像、音、選択肢、画面効果などを加えたものである。[2]

と定義されるようなものです. 要するにいつもやっているエロゲやらギャルゲやらのことです. エロゲギャルゲで音声と画像はなくてはならない要素となっています. (えっちシーンのないエロゲ、ボイスのないえっちシーン、物足りない・・・)
ナルキッソスでは, 表示される画像は上下の狭い背景画像のみで, イベントCGは数枚のみしかありません. さらには一度に表示される文字数もかなり少なく設定されています. (だいぶバックログのお世話になりました)
作者様は『情報量の少なさによって物語体験がどのように変化するか』というコンセプトの元でこのシリーズを作っており, 設定でボイスの有無を選択できますが, 公式[1]では以下の見解から, ボイス無しを推奨しています.

ボイス「有り」と「無し」…どっちが上なのか?
上という概念が微妙ですが「無し」が上だと思います。

理由はボイスが無いと、脳内イメージ力によって、
無限の理想形を受け手の方が想像できるからです。
仮に数値化すると最高で「∞」の状態だと思います。

しかし、もしもイメージ力の弱い人だった場合は、
(時間とかに追われて、そんな状態にあった人も含む)
数値化すると最低で「0」の状態も有りえると思います。

結果として最高も無限大だし、最低も0って感じでしょうか。

これに対して、ボイスありの場合は、
脳内イメージする余地がありませんので、
全ての人に均一した数値を与えられると思います。

それならば…もしかしたら、
「絵」に関しても同じことが言えるのかも?
(実はシナリオに関しても同じかも知れません)


しかし、絵の無いようなモノは商業では商品価値的にも、
許してもらえません。なので今回は同人で試してみました。

このように, 『Narcissu 』および『 Narcissu -SIDE 2nd-』は「受け手」にあらゆるイメージを委ねる手法をとっています. CGやメディアのある場所にはそれだけこだわりがある, ということの裏返しでもあります.

この記事では, 各『Narcissu 』および『 Narcissu -SIDE 2nd-』についてそれぞれ感想, 考察や考察メモをまとめます.

Narcissu

概要・物語

病院の7Fのホスピスにいる男女2人が病院を抜け出し, 死に場所を求めてドライブするお話です.

感想

ゲームをスタートすると, 年間の自殺者数の統計が表示されて, いろいろ予感するものがありました. ちなみにナルキッソスは普通の英語ではNarcissusですが, タイトルの『Narcissu』において最後の「s」が欠けているのは, 自殺を意味する「suicide」の頭文字を取り除いたものである, とされています[3]. 最終的にはセツミもその統計の一人となりました. オチが見えていても, それが最善の終わり方だとわかっていても, やはり悲しいです. 内容の感想に関しては2ndの方でいろいろ語ります.
システム面で, ゲームの視覚情報の少なさが, よりリアリティを補強していると感じました. コインランドリーで服を物色するシーンや, パチンコ屋の盗み未遂の場面等の生々しい場面では, プレイヤーの想像力が最大限まで掻き立てられたと思います. また, タイプRインテグラのクーペの内装, 外装を写実的に描いています. これらの演出によって, 2次元の物語を3次元に引き上げるような, 現実感を醸し出していました. このリアリティこそが, 今作の独特な読後感を演出しているように思えます.

考察・メモ

物語のモチーフ

セツミは, 「自らの意志」で普通の女子のように水着を着ること, ここではないどこかに行くこと, 死に場所を選ぶことを達成しました.
作中のナルシスとエコーの逸話によると, ナルキッソスはものを言えないエコーの意志の賜物でした. (呪いという形ですが. )このアナロジーで,

  • エコー ←→ セツミ (作中でも言及)
  • 呪い  ←→ 意志
  • ナルシス ←→ 世界(作中において逸話と違って「セツミが呪わなかったもの」として言及)

の対応が成り立ちそうです.
エコーは呪いの代償で, なくなってしまいます. セツミもまた同じく, なんですがセツミは「自らの意志」で死ぬ選択をしているところが大きく違います.
また, 地図を広げて「ここではないどこか」を夢見ていたセツミは世界に恋い焦がれていたとも言えなくないと思います. ここでも, セツミは世界を呪わなかったことが異なっています. なぜ呪っていなかったかというと, 諦めていたからです(作中言).
(余談 : 原作のギリシャ神話ではエコーが心痛で亡くなったのを見て復讐の女神ネメシスがナルシスに呪いをかけるという話らしいです. )

Narcissu -SIDE 2nd-

概要・物語

『Narcissu』の6年前の話で, セツミがまだ7Fではなかったとき, 病院で出会った人たちの物語です.

感想

姫子さんが最初にCGで登場したとき, 思ってた感じと全然違っていて驚きました. 自動車いじりが趣味の姉御肌ということで, なんとなく茶髪でセミロングのヤンキー風な女性を想像していたんですが, CGを見ると清楚系お姉さんでして, 軌道修正せざるを得ませんでした. ん~でも僕のイメージだと物語とマッチしない感じもするので仕方ない気もします. そもそも僕のイメージに偏見がありそうです...
お話としては前作『Narcissu』でよくわからなかった部分がすべて説明される過去編となっています. セツミがどうして5万円持っていたのか, 車に詳しかったのか, 道に詳しかったのか, 7Fのルールなど, いろいろな謎が明らかになって, 設定がよくできていると感動しました. 前作の発表から今作のリリースに2年かかっているようですが, 整合性が取れているので, 前作を作った時点でこの辺りの設定は存在していたのかもしれません. 後付けであっても好きです.
前作と比べると, 音楽, 登場人物, CGなど, 情報量が増えています.(それでもCGは少ないです) その分, 前作のような独特な作品体験の味は薄くなっています. それでも, 作中のイベントCGはここぞというときに使われているし, OPはeufoniusが歌っているしで, やはり演出面では前作とも劣っていないと思います. 特にCGの美麗さが印象に残りました. 僕は姫子さんがベッドの上で地図を広げているCGと, 姫子さんが祈るCGが好きです. 姫子さんが好きです.

考察・メモ

無印の設定の回収

2ndで回収された設定をまとめてみます.

  • セツミが地図, 5万円を持っていた ← 姫子さんから贈られた
  • セツミが車に詳しい ← 姫子さんの影響
  • 「何よ年下のくせに」← 姫子さん
  • 7Fのルール("友達を作らない"が存在しない) ← 姫子さん(無印の設定というかは微妙)

ほかにもいろいろあると思います. 公式では2→1のプレイ順が推奨されているのは, こうした設定があるからでしょう.

姫子さんはどうして富士山で自殺しようとしたのか

これ, 初見ではちょっとよくわからなかったので.
姫子さんは7Fのヘルパーとして働いていたことがあり, そのときになにもしてあげることができなかった少女に対して負い目を感じていました. 神にいくら祈っても, 何も状況は好転することはありませんでした. ここで描かれているのは, "見送る"アロアの無力さです.

・・・もし・・・私が聖者ならば・・・
・・・もし・・・私の言葉が・・・只の気休めでも、おまじないでもなく・・・
・・・・・・本物の魔法ならば・・・・・・

・・・今こそ、奇跡を起こすのに・・・ - 姫子

恐らく神さまはいる…
でもね、どうやら多忙らしいのよ、神さまとやらは
それとも…只、無関心なのかしらね… - 姫子

そこで, 「死ぬまでにやってみたい10のこと」の最後に, 神に聞こえるように高い場所で, 禁忌を破り, 神へと抗議するという項目があるのでしょう.
飛び降り自殺で神へと到達せんとす, というのは『素晴らしき日々』を思い出します. (結果をみても, その意味合いは全く異なっていますが.)

姫子さんはどうして富士山で自殺しなかったのか

上の考察と対になっています.
最初見たときはここで姫子さんが自殺したら, 姫子さんが大切にしているセツミが帰れないな...とか思っていましたが, おそらくここは本質的ではないので, 別の切り口を考えます.
姫子さんとセツミでこんな会話があります.

「もし、あなたのとても親しい人が、
 少しずつ弱っていったとして…」

「あなたは傍で、ずっとその姿を見ていたい?」

「………………」

「それとも、自分の知らぬ間に、
 いつのまにか亡くなっていて欲しい?」

「…わからない」

「私は、ずっと傍に居てあげたいと思うわ」

「でも、自分が去る立場ならば、逆…」

「傍には、誰も居て欲しくない…」

「…矛盾しているわ」

「その通りよ」

「去る者と、残される者は…決して交わることはないのよ」

姫子さんが言う, 「傍には誰も居て欲しくない」というのは, 自分が死ぬことで周りを哀しい思いをさせたくないことを意味しています. そのポリシーがあったからこそ, 親友の優花と妹の千尋に冷たく接したのでしょう.
どうして姫子さんが自殺しなかったのかは, セツミが「哀しい」と感情をあらわにしたことにあると思います.

自分の痛みには耐えれても、相手の痛みは耐えれないから。
去る者が哀しむことは…残される者も一番辛いから… - セツミ

これは, 姫子さんのポリシーに反しているので, 姫子さんは自殺ができません. また, おそらく姫子さんは, 千尋さんや優花さんが同じように哀しんでいることに気づいたのではないでしょうか.
何もできない存在として描かれてきた残される者"アロア"(セツミ)の"祈り"によって自殺を止めることができた, という点から, 「死ぬまでにやってみたい10のこと」の最後の目標である"神への抗議"は聞き入れられたと解釈することもできます.

物語のモチーフ

今回の物語では, 去る者と残される者の対比として, 『フランダースの犬』のネロとアロアが象徴的なモチーフとして用いられています. また, それに付随して「神」や「祈り」といったの観念的な言葉がクリスチャンの千尋さんや姫子さんの口から語られます.
「祈り」に対しては, 「呪い」が対比として用いられています.

祈りがあるなら・・・呪いもあるってことよ - 姫子

「呪い」の意味するところは, 禁忌を犯し神へと抗議すること, として語られました.
「神」と「祈り」はかなり解釈が難しいところです. 祈りの対象が, 「神」であるとして考えてみます. それを鑑みると, 祈りの対象はあらゆるものすべて, つまり「世界」です. 『素晴らしき日々』っぽい考察ですが, もう少しそっちに寄せていくと, 「祈り」とは『Narcissu』で語られた方の「呪い」、つまり「意志」です. 今作の「呪い」は, 対比から「世界」の外側(世界にはないもの)への祈りを表しています. 『終ノ空』ですね.

  • ネロ ←→ 姫子さん
  • アロア ←→ セツミ
  • 神 ←→ 世界
  • 祈り ←→ 意志
  • 呪い ←→ 世界の外側への意志

前作と同じ言葉でも, 意味合いがかなり異なっていることがわかります.

セツミの逆上がり

作中でセツミはたびたび病院付近の学校で, セーラー服を着て逆上がりをします. この行為は, セツミがまだ自分が「健康な人間」であることを確かめるためにやっていることが作中で語られています. この「健康な人間」, あるいは「普通の人間の生活」への執着, というか憧れは, 前作のラストの水着のシーンに繋がるところだと考えられます. 最期に人並みの幸福を手にしたセツミは, 笑うことができたのだと思います. だからこそ, 自分の意志で最期の選択ができたのだと思います.

自分の痛みには耐えれても、相手の痛みは耐えれないから。
去る者が哀しむことは…残される者も一番辛いから… - セツミ

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姫子さんがセツミと友達になった理由

作中では, "年下の友達を作ること"が「死ぬまでにやってみたい10のこと」の一つに入っていることが理由の半分として語られ, もう半分は"予感"と濁されていました. このもう半分とは何だったのでしょうか.
ワンピースを選ばなかったセツミに地図と"5万円"が, 千尋さんの手によって贈られたことを考えると, 姫子さんはやはりセツミが7Fの住人となることを予期していたと考えられます. 憶測ですが, "ネロ"になる前のセツミに, "アロア"の気持ちを伝えたかったのだと思います. ここのワンピースは「セツミが望む日常」のシンボルだったと考えられます. しかし, それを千尋さんに返すことで, 日常を諦めることを示しているのではないでしょうか. しかし, それでも姫子さんの最後の「魔法」はしっかり効きました.

最後に

既プレイ者といろいろ語り合いたくなります. 語り合いましょう.
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参考文献

[1]ナルキッソス(公式)
http://stage-nana.sakura.ne.jp/narcissu.htm
[2]岡嶋裕史「日本国内の電子書籍出版にかかわる契約の実情とその問題点に関する考察」,『関東学院大学経済経営研究所年報』第35号, 関東学院大学経済経営研究, 2013年, 83-96頁
[3]narcissuとは (ナルキッソスとは) [単語記事] - ニコニコ大百科
narcissuとは (ナルキッソスとは) [単語記事] - ニコニコ大百科
[4]ギリシャ神話|ヘーラー:エコーとナルキッソス
ギリシャ神話|ヘーラー:エコーとナルキッソス